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2008年6月のコラム
入院・手術を体験してわかった医療サービスの質

色々な場面で、『格差』という言葉を耳にしたり、『格差』という文字を目にするようになりましたが、病院にも『格差』はあるのだろうか?そんなことを考えるきっかけは入院体験でした。

今回、不覚にも左ひざ前十字靭帯損傷で、4月22日に入院し翌日23日に前十字靭帯再建手術と半月板縫合手術を受けることになりました。 ちょうど良い機会なので、入院体験レポートとします。

実は、4月1日に今回手術を受けた医療機関のスポーツ整形外科専門医の診断で、けい骨の骨折も判明し、前十字靭帯損傷は決定的と診断された上に、半月板裂傷の可能性も高いと宣告されました。 その1週間ほど前に、元横浜フリューゲルスのチームドクターだった医師が開業している最寄りの整形外科を受診していましたが、左ひざ前十字靭帯損傷のみの診断でした。 少々腑に落ちない気持ちがあり、いわゆるセカンドオピニオンのつもりで受診した別の医療機関の専門医の診断の精度がかなり高かったという結果でした。 また、最初に受診した最寄りの整形外科医が紹介する医療機関(総合病院)に行って手術を受けていたら、損傷が激しかった半月板は切除されていたかもしれないそうです。 同じ整形外科医でもこれだけ診断や手術方法の考え方に大きな差があることに驚かされました。

お恥ずかしい話ですが、5年前にも右ひざ前十字靭帯を損傷し、同様の手術を受けました。 その時は半月板の裂傷はなかったものの、一部に小さな傷があった程度で大事に至りませんでした。 その経験もあったので、今回の初診で前十字靭帯損傷のみの診断に少し疑問を感じたわけです。

さて、今回26日間もの入院で、その病院の運営方針や職員への浸透度なども観察してみて、やはり医療機関にも『格差』があることを痛感しました。 私がお世話になった病院は、内科が中心で、他に一般的な整形外科があり、お年寄りの外来患者も多く通院していました。 それとは別に、スポーツ整形外科があり、スポーツによる怪我、特に骨折や靭帯損傷、アキレス腱損傷、関節の怪我などを専門的に治療しています。 担当医は確か3名だったようですが、中でも私の主治医は半月板治療に異常なまでの執念があり、そのおかげで半月板を切除されずに済んだとも言えます。

4月23日に手術を受けてから病室での療養生活が始まり、最初に驚いたのは私と同じように入院しているひざ前十字靭帯再建手術を受けた患者がどこから来ているかということでした。 私と同室の3名は、横浜市内ではなく、1名は新潟から遥々この病院のホームページを見て受診しに来て手術を受けたそうです。 他の1名は千葉県柏市から、もう1名は厚木市から来たそうです。 隣の病室の方々とも話をする機会があり、聞いてみると横浜市内の入院患者が少ないことに気付きました。 しかし、地元横浜の患者が少ないのでなく、遠方からの患者が急増していることを知りました。 スポーツ整形外科という特殊性もあり、地方都市ではなかなか専門医がいないために、遠方からでも横浜まで来るしかないのでしょう。 この病院のスポーツ整形外科には、以前から横浜マリノスの選手も来院しているそうですし、慶応大学や近隣の高校の運動部の学生や生徒もよく受診しているようです。 専門医から分かりやすい怪我の状態を説明され、的確な治療と回復期の定期的な経過確認が、受診する患者の信頼感を高めていると感じました。

遠方にもかかわらず、この病院で受診し手術を受けている患者が増えているのには、何かわけがあるだろうと思い、色々と話を聞いてみました。 先に結論を言ってしまえば、受診の決め手は手術経験のある知人の口コミ情報と病院のホームページを見たという二点に集約されます。 私自身もサッカーの仲間がこの病院で、同じ前十字靭帯の再建手術を受けた時に見舞いに来たことがあり、事前情報があったわけです。 当然、この病院のホームページも見ています。

ところで、5年前の手術前にも、「インフォームドコンセプト」が十分に行われていた記憶がありますが、今回はさらに分かりやすい担当医の説明に納得しました。 ひざ全体の複雑な模型を見せながら、担当医が丁寧に手術の工程や方法を説明し、分からないことや疑問に思うことも遠慮なく聞ける雰囲気があり安心して手術を受ける心構えができました。

医療機関でも介護サービス事業者でも、情報の非対称性を踏まえ、専門知識がある医師や介護事業者側が患者や要介護者、その家族に分かりやすく説明するのは、当然だと痛感し、再認識しました。

もう一つ、この病院が一貫して実施していることがあります。 それは、医師や看護師たちがどの入院患者に対しても『痛みはありませんか?』と、毎日のように確認しています。 もし、痛みがあれば、すぐに対応していました。 例えば、同室の患者が手術後の夜に痛みを訴えると、夜勤の看護師がすぐに座薬で対応していました。 少なくとも、5年前に入院、手術した病院では、そのようなことがなかったので、病院によって随分違いがあるものだと驚きました。 よくよく考えてみれば、病気や怪我で痛みが伴わないことはないので、その痛みを取り除くことも患者に対するこの病院の徹底したポリシーであり、それが職員に浸透しているように思えます。

私の入院体験から雑感のような話になりましたが、医療機関が地域に根ざした医療サービスを提供するのは当然のことですが、遠方からの患者も集客する吸引力があるのは、なぜかと考えて見ました。 私の入院体験から、3つの要因が挙げられるのではないかと思います。

第一は、なんと言っても『口コミ』です。勿論、『口コミ』されるだけの良質な医療サービスが提供されていることは当然です。 スポーツ整形外科分野の手術件数が多いことはその医療技術の高さを裏付ける根拠の一つでもあります。 また、「患者に痛みを与えない」、「痛みを取り除くためにあらゆる方法で対応する」と言った姿勢が、現場の医師や看護師に徹底されていることは、高度な医療技術以上に重要だと感じました。

二つ目は、口コミを裏付ける『ホームページ』が充実していることです。 他の医療機関には見られない内容と訴求力を感じます。 この病院の医療に対する姿勢、モットーが分かりやすい平易な言葉で訴えかけられていることも特徴かもしれません。 例えば、スポーツ整形外科で手術し入院した患者には、関節や骨の怪我の回復を早める食事メニューが用意されていることなども紹介されていて、他の病院では見られない独自性があります。

三つ目は、退院後のアフターフォローです。リハビリテーションが計画的かつ個別的に行われていることです。 しかも、担当医と理学療法士との情報共有が図られた上で、患者への説明にも納得感があります。 回復のプロセスを患者とともに共有し、『良くなっています。もう少しですね』と言った言葉かけも、意外に重要な要素なのだと感じました。

現在、厚生労働省では診療報酬の引き上げなども検討されていますが、06年以降、病院経営は軒並み赤字になっているようです。 国の医療政策の変遷に左右されるという点では、介護事業も同様で、報酬単価に右往左往しなくてもよい事業運営を目指すことが、そうでない所との『格差』となって現れているのはないでしょうか。

2008年6月9日掲載

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